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彼女は胸を刺されていた。
右でも左でもなく、胸の中央。
肋骨が最も強固な部位を、しかし、骨が削られるほどに穿たれていた。
臓器への損傷は少ない。
心臓は無傷だし、肺も無事だ。
だが、気管は著しく損傷していた。
「ぶ、はぁ……っ」
口から血液が溢れだし、吐血する。
受け皿となった手のひらから、ビシャビシャと赤い体液が零れて落ちた。
彼女の視界を赤い色が支配した。
突如として耳鳴りが響き渡る。
耳の中に蝉がいるのではないかと疑ってしまうほどに、けたたましい轟音だった。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ」
抑揚のない音が断続的に彼女の口から発せられる。
なぜ昔の同級生に刺されなければならないのか。なぜ助けたのに殺されなければならないのか。
そんなこと、彼女にはもうどうでもよくなっていた。
わからないままで、知らないままでもいいから、早く眠ってしまいたかった。
ただただ、この赤の世界から逃げたくて、彼女は自ら意識を消し去った。
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