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痛い痛い痛い。摩擦熱みたいに手首が熱い。
傷口はひりひり痛んで、じっと見つめていると血が滲む。
ああ、痛い、痛い。
皮膚が切れる感触がよく分かった。刃を横に引いたとき皮膚が切れて、皮膚の下に、刃が。
ゴト、
何かが床に落ちる音。手元が妙に軽い。
ああ、ハサミが落ちたのか。
「……なにしてんの」
後ろから聞こえた声に、そりゃもう心底驚いた。
「なっ、のか」
心臓がばくばく鳴ってる。空気を伝って、七日に聞こえるんじゃないかと思うほど。
「ちょっと待って」
七日は踵を返し向こうにある棚の上から箱を取った。
それを持ったままこちらに来る。
「座って」
ソファーを示されそれに従う。動いたためか、左の手首がじくりと痛んだ。そのあともじくじくした痛みは一向になくならない。
あれ、なんでこんなに痛いんだ。
「手ぇ、出せ」
「はい」
「違う。左」
七日の細い指が俺の左腕を掴む。そのときようやく思い出した。
俺、手首を切ったんだ。
「……七日、」
「なに?」
返事するときも七日は手を止めない。救急箱から取り出した消毒液を手首にかけて、余分な液体をティッシュで拭いている。
消毒液が染みて痛い。
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