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「あら、起きたの? 三河くん」
つまらなさそうに先生が言う。三河(の容姿)に思いを寄せるひとりだったのだろうか?
「すみません、先生。ベッドを占領してしまって」
「いいのよ三河くん」
三河が申し訳なさそうに言うと先生は態度をコロッと変えた。
「先生、もうこいつ大丈夫みたいなんで、一緒に帰ります」
「ほんとに? 私が車で送ろうか?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
好意だけ受け取っておく、という風に三河が微笑む。
「そう……、お大事に」
「はい」
少しがっかりした様子の先生を気にする素振りもなく三河は保健室を出た。俺もあとを追う。
「三河っ」
「ナツキ」
「なつき?」
「名月と書いてね。僕の名前だ」
ああ、確かに女子はそう呼んでいたような。
名月か、綺麗な名前だなぁ。字だけ見たらメイゲツって読みそうだけど。
「僕だけ呼ぶのは不公平だろ」
「そうなのか?」
「そういうものだよ」
どういうものなのかは知らないがまあいい。
というか、三河にとってあのふたつの出来事は記憶から消えているのだろうか?
俺の手には首を絞めた感覚が残っているし、三河の唇だって覚えている。
消えてたらやだなぁ。
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