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花里まで聞こえるように、少しだけ声を張り上げる。
「死にたくはないなー」
花里からの返事。なんだか間抜けだ。
上着が濡れている。花里は海から上半身だけ出して笑っていた。
死にたくないなら帰ってくればいいのに。帰れなくなる前に。
「君はもう戻れないだろ」
靴を脱ぎながら再び声を張り上げる。靴下も脱いだ。財布と携帯は靴の横に置く。
どうせ濡れるなら、ズボンの裾は上げなくていい。
「マコト?」
でも君は裾を上げただろう。
「そこを動くなよ」
海に足を入れる。やはり冷たい。
まったく馬鹿なやつだと思う。秋の海には魔物が潜んでいるんだぜ。
「なー、今なに考えてる?」
「いつもみたいに当てないのか」
「それが今はさっぱりわかんないの」
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