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「……寒い」
「ごめんなさい」
花里は海から上がってからごめんなさいしか言わない。――服がびしょ濡れだ。ごめんなさい。海水塩辛い。ごめんなさい。君の携帯壊れてるだろ。ごめんなさい。
「いい加減うっとうしいよ、君」
「ごめんなさい」
……ふざけるな。
それより、この濡れた服のまま電車には乗れない。どっかの馬鹿は財布も携帯もびしょ濡れだろうしな。
「次ごめんなさいって言ったら」
「ごめん、マコト」
これはセーフだろうかアウトだろうか。
花里は今にも泣きそうな情けない顔で僕を見た。
「ごめん。俺、どうかしてた。死にたいわけじゃないのに」
「そうだな」
「ただ海が綺麗だったから、入ってみたくなって」
コンクリートの階段に座る。花里は立ったままだ。
「マコトが来てくれなかったら、俺、」
「それはもういいよ」
「……っごめん」
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