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死んだら、幸子が悲しもうが母さんが泣こうがなにもできない。もうどうしようもないんだから。
過ぎた時間は戻せない。例えば俺が事故で死んだとして、それは俺が責められることなのか。
「そうだよ。それ以上なにを言えって? 雪端が死んで、一番同情されるのも嘆くのも家族だろ」
七日が吐き捨てるように言う。びっくりした。七日がそんなこと言うなんて。
「だから死ぬ前に言っとこうと思って。幸ちゃんは悲しむと思う。もちろん両親も、さ」
「……わかってるよ」
「うん。知ってる」
なにが言いたいのかわからない。少しずつ、日常が崩れてく感じがした。
なんだろう、この感覚。
わかった、楽しいんだ。一瞬で世界が変わるような、目から鱗が落ちるような。
少なくとも一年は同じ屋根の下で暮らしていた彼の知らない一面。それを垣間見ただけで、世界がこんなにも変わるなんて。
「死にたかったら死んでもいいよ。遺されたひとのことも忘れて、せいぜい平和に暮らすといい」
「っ嫌だ!」
俺は七日のことを全然知らなかったと自覚したばかりなのに、彼はまるで俺の思考をすべて読んでるように笑う。
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