夜明け前

3/8
前へ
/99ページ
次へ
宿に到着して、記帳を済まし、部屋に案内されると青年は荷物を下ろした。 次いで武器防具などの装備品を外すと、長剣を鞘から抜いた。 ところどころが刃こぼれしており、血糊と脂で曇ってしまっている。 「あーぁ、やっぱ駄目んなってんな…」 小さくぼやいて、ため息を一つこぼし、皮袋から砥石を取り出した。 曇った刀身を丹念に研いでいく。 ダルサエラに着くまでにも、何度か魔物と出くわした。 叩き斬る分には問題ないが、切れ味が鈍っていることは確かだった。 鍛冶屋に頼めばいいようなものだが、駆け出しの頃からの長年の習慣とかいうやつで、未だに自分でしてしまう。 ひととおり長剣を研ぎ終わると、青年は夕食をとりに階段を下りた。 小さい町では宿屋、兼、酒場になっている店は少なくない。 この宿も案の定で、仕事を終えた町人たちが酒を酌み交わしては騒いでいる。 喧騒の中、青年はカウンターに立つ宿屋の女将に幾品か料理を注文して金を渡した。 陽気に歌う人々を眺めながら、少し遅めの夕食をとる。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加