第三話 学園都市アウロラ

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嫌な夢を見た。 何かは良く覚えていないが、とにかく恐ろしい何かに追われて、必死で逃げる夢。 かなりうなされていたらしく、薄手の夜着が寝汗でべっとりと背中に張り付き、上掛けの中で足にシーツが絡んで鬱陶しいことこの上ない。 おまけに息切れを起こしての目覚めは最悪で、さながら寝ながら町内を全力疾走したがごとく、全身を襲うこの疲労感。 見慣れた学生寮の自室のベッドの上で半身を起こし、アリスは胸に溜まった重い息を吐きだすと、自分の白い髪を両手でかき回して唸り声を上げた。 「ああああああ、もう。何なのよ」 ひとしきり悶絶してから脱力し、再びベッドに倒れ込む。 「……夢の中くらい、楽しく過ごさせてくれたっていいじゃない」 もともと若干癖がある髪の毛はどうやら今日も激しく寝癖がついているようで、直すのにかなり時間がかかりそうだ。 横に倒れた体勢のまま、もそもそと上掛けの中に潜り込み、膝を抱えてぼそぼそと愚痴をこぼしていると、閉じた窓の向こうから六時の鐘が響いてきた。 「はいはいはいはい。起きますよー」 二度寝を諦め、しぶしぶベッドを降りて、素足をスリッパに差し入れ。 上掛けを整え、枕を軽くはたいて立てかけて。 ふと見る窓硝子の向こうの、白く輝く外壁の内側で赤レンガの建物がひしめき合う街並みに、ひと際目立つクリスティア教会の鐘突き堂を見付けたアリスは目を眇めて舌を突き出し、悪態を吐く。「意地悪!」
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