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異なる世界に来たと言う不安をどうにか抑えているが、正直怒鳴り散らしたい気分だった。
何故、俺がここにきなくちゃならなかった?どうして俺が?しかも、見ず知らずの女の子と暮らさなくちゃならない?
父親には金を持ち逃げされ、初めて会った祖父には冷たく突き放され、終いには異世界に迷い込んで、帰りたくとも帰れない。
まさに踏んだり蹴ったりだった。
けれど、それをキリエと言う女の子にぶつけることはどうしても出来なかった。
彼女とこれから一緒に暮らす以上気まずいのはごめんだし、何よりあの無垢な笑顔を見ると此方の方が罪悪感を感じてしまう。
(…情けないぁ。)
自分という人間の脆さに静馬は拳を握りしめる。
もっと強くならなければ、前向きに考えねばとキリエとは反対にこれからの不安を打ちはらうように、顔を上げるとキリエの背に続いてその場を後にした。
対極する少年と少女
一人は、少年との暮らしやこれからの事にことに胸を弾ませ
一人は、不安を抱えたまま、現状を少しでも受け入れようと必死に、感情を抑えながら
二人の道は本人の意思とは関係なくゆっくりと交わり始めた
「クルーエル枢機卿様…これは…」
「やはり…全滅ですか…」
その頃、地域調査に乗り出していたクルーエルと書記官三人の目の前には神殿が保有していた畑の悲惨な姿があった。
水田は水は引かれているのに稲は枯れはて、その先にある大きな森は既に木の葉は散り、枯れ木の墓場と化している
龍災の被害は予想以上に甚大であった
新しい龍公が生まれれば被害は止まるが…未だにその兆しはない。
「急いで無事の稲だけでも刈り取りなさい。今ならまだ間に合います」
「は、はい。」
慌てて管理している農家へと走る書記官を見送るとクルーエルは空を見上げる
「女神よ…貴方は本当にこれでよいのですか…?」
その問いが届くはずもなく、空はどこまでも澄み渡っていた。
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