降誕の兆候

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「…ほら例の…」 「あれが…?」 ヒソヒソとこちらをチラチラと見てくる学院の生徒たちに、静馬は苛立ちを感じていた。 この世界に来て3日がたった。 一通りこの世界や、聖獣の説明を受けた静馬は現在文字の読み書きを学院長の薦めではじめた。 文字はなんと言うか、アルファベッドを崩したような文字で、読み書きには恐らく時間がかかるだろう。言葉が通じるのは不幸中の幸いかもしれない 静馬がこの世界に来て変わったというところは身体能力が良くなっているぐらいのようだ。 ジャンプをすると余裕で二階立ての屋根までいける跳躍力に、息切れしない体力 、疲れにくい身体。視力や聴覚も格段に良くなり、今では100メートル離れた人間の肌の毛穴まで鮮明に見える。 どうやら、この【星河の淵】と言う世界は静馬が暮らしていた場所と違って、重力があまり強くないのだろうか?身体がやけに軽く感じてしまう。 静馬は自分の身体能力と同時にキリエと言う少女の扱いに困り果てていた。 聖獣は寝食を共にしなければならないため、同じ部屋で寝るのだが、ユリアと言う少女も同室なため三人で暮らすには部屋が手狭だった。 ユリアもそう感じたのか、自分のパートナーを連れてさっさと隣の空き部屋に移ってしまったのだ。 ただでさえ女子寮に寝泊まりするだけで恥ずかしいのに、年頃の少女と二人っきりにされるのも実に男として困る。 キリエは無防備な少女だった。 人懐っこいと言うか無邪気というか…女子の自覚がない。今朝なんて寝ぼけながら目の前で着替えようとするキリエを見て静馬は慌てて浴室に逃げ込んでいたりする。 ユリアと言う少女があれほど心配した理由が今になって静馬は理解した。 なんと言うか…目が離せない幼児のようだ。 学院に登校すると男子からは「ちくしょー女子寮で暮らすとか羨ましすぎるだろ!」とか羨望や嫉妬が入り雑じった視線をうけ、 一部の女子達からは変態をみるような冷ややかな視線をうける。 別に本人が望んでそんな状況になったわけじゃない。静馬自身あの場でそう選択するしかなかったのだ。 静馬は改めて自分をこの世界に送ったあの白い柩を心の中で罵ると、もたもたと次の授業の支度をするパートナーに溜め息を深くつき、その手伝いをするべくゆっくりと立ち上がった。
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