酸っぱい飴。

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 コンコンという空気の振動により発生する音。 空気は目に見えないのに、可視できるドアという物体によって動くんだ。 O2とかH2とか、微粒なCとかFeも伴って動いていて。感じないけど僕も動いてるんだ。 「入れ」 コンマ数秒間の脳内で考えていたことを低い男の声で遮断される。 「失礼します」 「……」 ねっとりとした黒目でこちらを見てくるのを横目でちらりと見る。瞬間逸らされる。  手に持っていたビーカーが思わずガチリとせめぎあった。 「……」 「……」  爆発する感情。堪らない程沸き上がる悦と喜の色をしたマグマ。 「先生、どこに置けば良いですか?」 「ああ……後ろのテーブルに置いておいて。」 「…はい」 緑色したプラスチック製のかごをゆっくりと降ろす。カチャリ、カチリという硝子の音。  どう穏やかに扱っても音を発ててミリ、ミクロ単位で傷付き、傷付ける硝子達。 「………………」  沈黙。ああ愛しい元素達。原子の粒が無い空間はここにはない。  僕に接している原子は流れ流れて先生の頬に触れるだろう。  先生の眼球に膜を張っている涙は蒸発し、いずれ僕が吸うだろう。
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