1.異常

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『物語には、欠かせない物がたった一つだけある。 それは、何かが異常であることだ。』 ふと、そんな師匠の言葉を思い出した。 何故かって? ……目が覚めたら、森の中に居たからだ。 何を表現するでもなく、俺は今からただありのままを告げよう。 本当に……本当に、気がついたら俺は見知らぬ森の中にいたんだ。 ビルの中で仕事の合間、仮眠を取った事までは記憶している。 それが、俺が最後に記憶している光景だ。 信頼できる同業者に周りを見張ってもらい、眠りについたのが最後の光景。 そして目が覚めたら森の中。 コレを異常と言わずに何と言えと? 「体に……異常は無いな。」 別段縛られたり麻酔をかけられたりはしていない。 体は思い通りに動くし、外傷も見当たらない。 「となると……ただ連れ去られて森に捨てられた、とかか?」 いや……それだったらどこかで気付くはず。 俺はそこまで馬鹿じゃないしな。 「とりあえずは、仕事場に戻らないと。」 日の光が見えているから、もう既に終わっているのかもしれないがまずはビルに戻ろう。 持ち物は……あぁ、全部ある。 財布にGPS、非常用の暗器に携帯食料。 携帯電話に御守り(キャラキーホルダー)が幾つかに……ロケットペンダント。 あぁ、全部あるな。 「よし、コレなら戻れる。」 そう言ってGPSを操作する。 最初は訳が分からなかったが、人間慣れると何にでも対応…… 「……え?」 ……できる訳でもないらしい。 流石にコレは想定外過ぎる。 だってよ…… GPSが『地図を表示出来ません』って表示されたら、みんなはどうする?
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