1.異常

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待て。 俺はたった今目の前にいる江戸チックの彼女からとんでもないことを耳にした気がする。 「……もう一度、ここの場所の名前を言ってくれないか?」 聞き間違いだと思うが……念のため、だ。 「ん? ここは再思の道。 本来なら死んで霊魂となったら来る場所で、一般的には三途の川さ。」 正確には三途の川はあの川自体で、今いる場所は再思の道だとかなんとか事細かに説明してくれやがった。 と言うことはなんだ、俺は死んだのか? ……いや、死んではいないはず。 もしそうならば、『生きてる人間』や『本来』なんて単語は出ない筈だ。 ほら、自分の心臓が動いているのだって感じ取れる。 「念のために聞いておきたいんだが。 俺はまだ生きてるよな?」 「当たり前じゃないか。 死んだらいくつか例外はあるけど、基本的には人間も妖怪も霊魂になる。 それに……あんたはまだまだ長生きするよ。 自分から望まないならあと50年は平気って出てる。」 ……後半は無視しよう。 訳が分からない。 とりあえず俺はまだ死んでいないらしい。 なら……半死半生、ってやつか? 一番最後のを聞くからには、まだ死なないらしいし恐らくゲームとかである意識が少し飛んでる状況だろう。 「……いまいち分からないが、俺は生きてるのか。 なら、いつか横浜に帰れるんだな。」 安堵のあまり独り言を呟く。 ……悪い癖だな。 だが、その独り言に彼女は反応する。 「横浜? 横浜って、何処かの地名かい?」 ……俺は今日だけで何度混乱すればいいのだろうか。 あぁ、でも半死半生の世界だし現実世界には疎いのも仕方ないな。 「ん、あぁ。 日本って国の大きな都市の一つだよ。 ところであんた、どうすれば戻れるか知って……」 ……何か彼女が怪訝な顔をしている。 さっきまでのさらっとした感じは一切無く、どこか困ったようなどうしようもないと言ったような……そんな顔。 そして 「……あんた、外来人だったのかい。」 この、一言でどうやら俺は今は相当異常であると判断せざるを得なくなってしまった。
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