6人が本棚に入れています
本棚に追加
たまたま目に付いた長身の男を見上げ、帝は羨ましそうな視線で通り過ぎる。
直後、その長身の男は同僚に頭をポコスカと殴られていた。
メッセンジャーで書いてあった監獄と言う場所は、ジャマダハルから車で数十分の所にある。
『ジェイルハウスロック』、それが監獄所の名前だ。
すたすたとロビーから出、用意されている黒い車に近づく。
黒服が後部座席の扉を開け、帝に一礼し、一歩退く。
目配せもせずに帝は後部座席に座り、ふぅと一息つき、腕組みをする。
エンジンの掛かる音と共に速すぎない速度で道路を進む。
この移動の時間さえ、帝にとっては一時間、二時間くらいの永さを感じていた。
退屈そうに後部座席の窓から外を眺める帝の姿は、何処か弱々しく見えた。
■ ■
「帝様、到着でございます」
到着までの間、余りにもの退屈さに帝は惰眠“だみん”を貪“むさぼ”っていた。
首を左右二振って音を鳴らし、後部座席が開かれるのを見て外に踏み出す。
何時来て見ても、変わらない――
ジェイルハウスロックを見て、退屈な物を見る目でそう思った。
片手を挙げて運転手を車内で待機させ、帝は一人でジェイルハウスロックに入る。
ジェイルハウスロックに入って、ドギツイ目線が帝に突き刺さる。
しかし、直ぐにそれは媚びたような目線にへと変わった。
へこへこと此処のトップとなる男が現れ、帝に一礼をする。
地下にへと案内され、意外と明るい廊下を歩く。
どの囚人も騒いだりする事はなく、暴言が跋扈“ばっこ”するなんて事はなかった。
それ程までに此処のルールは厳しいのだ。
だが、そんなどんよりと重く沈んだ空気を一気に払いのける、所謂“いわゆる”陽気なオーラを感じる牢屋があった。
正にそこにぶち込まれている囚人(仮)こそ、帝の退屈凌ぎとなる生き物が収容されている牢屋だった。
一匹狼の性格を知っている男は此処でピタリと足を止め、一礼してから踵を返し、退出。
鋼鉄製の牢屋の隙間からうねうねと緑色をした蛸の足がはみ出ており、不気味さが引き立てられている。
しかし、そんな不気味さにも負けず、帝はずかずかと牢屋にへと歩み寄る。
帝王に逃走はないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!