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はみ出ている足をむんずと踏みつけ、ヤマツカミの注意を此方に向ける。
少し手荒な向け方だが帝王の寝顔を見た罪があるのでノープロブレム。
ぎゅうぎゅうに押し込められている滑稽な光景に失笑が出掛けたが、ぱちりと大きな赤い目が現れたのを見て顔を引き締める。
「あ、どうも」
思ったよりフランクな挨拶に、帝は腕組みをしてしかめっ面をする。
無礼な挨拶と共にヤマツカミの体はしゅるしゅると縮んでいき、帝の足元で蠢いていた触手が牢屋の内に引っ込む。
やがてバスケットボール大の大きさになったヤマツカミは、四本の触手で器用に胡坐“あぐら”をかいて腕組みをする。
「…………」
ヤマツカミの体積の変化に驚く事もなく、切れ長の瞳でヤマツカミを睨み、静かに相手の反応を待つ。
沈黙は数分続き、ヤマツカミはやり難そうな顔で腕組みを解いて頭部を掻き、言い難そうに口を開いた。
「あー……いやまぁ、ちょっとしたお願い事があるんだよね」
帝王に向かって『頼み事』とはいい度胸。
帝は短く息を吐き、無言で小首を傾げる。
ヤマツカミは先程言ったセリフの後半部分をもう一度言葉を繰り返す。
「ちょっとしたお願い事~……つっても、余計なお節介だとは思うんだけども。あんた、今の地位を築いてから生活が退屈でしょ?」
会ってから間もないと言うのにこの一言――
帝は、得も言えぬ不快感を感じていた。
その不快感は、見ず知らずの生き物に己の心境を悟られたと言うのではなく、恐らく全女性が思う事であろう『気持ち悪い』と言う物だ。
帝の表情の変化を見て、ヤマツカミは慌てて帝の中の誤解を取り除こうと言葉を続ける。
「あ、いや、別に今まで見てたんだぜフヒヒッ!って事じゃなくてだな……一つの大きな目標を成し遂げた後っつーのは『ダレ』が続くもんさ。んでもって、その時に出来た隙を突かれて形勢逆転……とまぁ、プライドが高いあんたなら言わずもがなだけどね」
「……何が言いたい?」
苛々した様子で、帝は瞳を閉じて問う。
ヤマツカミは再び頭部を掻き、実にやりにくそうな顔で溜息をつく。
そして立ち上がり、ぐいぐいと牢屋の隙間に己の体を押し付け、軟体動物の特権を生かしてなんとか脱出。いや、脱獄。
何処からか一枚のカードを取り出し、チラチラと帝に見せる。
そのカードには、何処かの教会のような神々しい扉が描かれており、何らかの特殊な気が感じられる。
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