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「『俺が知ってる世界』じゃぁ、あんた並みに強い人物はゴロゴロといる。そこで、だ……修行してみないかい?」
ぴくりと耳を動かし、不可解な言葉に小首を傾げる。
修行と言うのは些“いささ”か興味がそそられるものの、多世界が存在すると言うのにも興味がそそられる。
だが、帝は帝王。
統率者のいない街など、無法地帯もいい所だ。
だが、そんな心配をしている内に、ふと帝はヤマツカミの真意を悟った。
「……成程な、私を帝王の座から堕とし、ゼロから始めさせる気か」
「大体合ってる」
にたりと気味悪く笑い、カードを指の先でくるくると回転させながら頷いた。
これは帝にとって、いや、頭となる人物にとって、大きな賭けと言える。
自らの意思でトップから降り、最下層の地位から始める――
確かに、帝は今までの生活に退屈し、怠けている所も多少なりとはある。
だからと言って己の暇潰しに帝王の座から降り、再びゼロから始めるという事はリスクが大きすぎる。
たかが暇潰し如きに――
怒りの表情を見せ、ヤマツカミを睨む。
しかし、ヤマツカミは帝の反応に怯みもせずにクックッと笑い、ピンと親指でカードを弾き、キャッチする。
「あんたはまだまだ若い……『妖怪』として、稚拙“ちせつ”な餓鬼“がき”の部類に入る。狭い世間で威張ってても哀れだって事だぜ。それに、これはあんたの為でもあるんだよね。衰退して堕とされるか、自ら降りるか……どっちが屈辱的かあんたが一番分かるだろ?おまけに部下達からの信頼の強さも計れる、いい事づくめだと思うけどなぁ」
ヤマツカミの言っている事は正論。
帝は19歳にして帝王の地位を築いた。
それまでの経緯に危ない場面もあった。
その時は己の運により助けられたが、これから先に待ちうけているであろう修羅場で、その運が必ずしも向いてくるとは思えない。
仕事は部下に任せ、自分は資料のおかしい所を見抜き、Yes/Noの判断を下すだけ。
下す際は慎重に判断はするものの、所詮は素人。
玄人の巧みな文章と話術には敵わないのである。
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