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「……で、その有森って奴に見られてた、と。」
冷めたインスタントコーヒーをすすりながら、いつもの調子で先生が言う。
まるで他人事みたいだ。
わたしたちは、先生の自宅の一室に向かい合わせで座っていた。
わたしはソファ。先生はデスクチェア。
進路指導じゃないんだから…。
窓辺に置かれたオイルヒーターが、隙間だらけの部屋を暖めようと必死にがんばっている。
あれから、電話で現在の危機的状況を説明しようと試みたが、わたしのあまりの支離滅裂具合に閉口してしまった先生は、
「わかった。今から行く。」
の一言で、愛車のボロカーを走らせ、颯爽と現れた。
そして、そのボロ君にわたしも乗り込み、事の次第がひとつひとつ整理され、今に至る。
時間は夜の9時にさしかかっている。
自分で言うのも何だけど、うちの家庭はだいぶ緩い。
片親な上に、母親は夜の仕事。
なので、わたしの夜間外出を咎める保護者はいない。
…そんなに羽目外して遊んだことないけど。
とは言え、生徒を夜に平気で連れ出すって、教師としてどうよ?
あ、今は教師じゃないのか。
わたしは、目の前でのんびり眠そうにコーヒーをすする恋人に、苛立ちを隠せない。
「…なんで、そんな冷静なの?
バレたら、終わっちゃうんだよ?」
自分ばっかり慌てふためいて、馬鹿みたいだ。
わたしは唇を尖らせ、ふて腐れて見せる。
ああ、またこんな子供っぽい…
咄嗟に、しまったと思ったが引っ込みがつかない。
流れる沈黙。
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