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コーヒーと煙草の入り混じった味が唇から流れ込み、舌に、頬の内側に、染み渡っていく。
散々、それを味わってから、幅の広い肩に顎をひっかけ、すべての体重を先生に預けると、わたしはようやく落ち着いた。
大きな掌が、均一なリズムで背中を優しく叩く。
「とりあえず、相手の出方次第、ってとこだな。
今んとこ、何も起きてなさそうだし、その有森って奴の様子みるしかないだろ。」
「……うん。」
教師と生徒の情事。
うっかり目撃してしまったら、普通はどうするんだろう。
罰する為に学校に訴えるか、面白おかしく噂を広めるか…それをネタに本人たちを脅迫する、か…。
でも、そのどれもが、有森くんの行動としては想像できない。
って、彼をそんなによく知っているわけじゃないけど。
「…そういえば…
どうやって入ったんだろう、理科準備室。
あそこの管理、先生だよね。」
顔を先生の肩に埋めたまま言う。
「…あ…」
声と共に背中の手の動きが止まったことに気づき、わたしは、顔をあげる。
「有森って…あいつか、髪の毛ふわっとしてて、色白で、眼鏡の…」
「…うん。てゆっか、有森くんのクラスも授業持ってるでしょ?
生徒の顔と名前くらい覚えなよ。」
先生は、ばつの悪そうな顔で笑う。
「どしたの?」
「…鍵、貸したわ。俺。」
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