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「…何、してるの?」
聞きながら、不意にさっきまで自分が立っていた位置を目で確認する。
ここからなら、見様によっては死角…かも。
「何って…実験。」
無表情に答える彼の様子からは、何も読み取れない。
眼鏡の中の瞳も、微動だにしない。
その手には、持ち手のついた木箱。
フラスコやビーカー、薬品の瓶…あれこれ入っている。
制服の上には、先生と同じ白衣。
いや、同じじゃないな。
先生のよりずっと綺麗だ。
襟もちゃんとプレスされているし。
「実験って…放課後に?」
「俺、化学部。」
短く答えると、彼は準備室の扉を閉め外に出た。
木箱の中で実験道具が、カチャカチャと音をたてる。
わたしなんかまるで目に入らないみたいだ。
さっさと窓際の机に移動すると、道具を並べ、慣れた手つきで準備を始めた。
「化学部なんて…あったんだ。
…いつもここでやってるの?」
いや、やってない。知ってる。
だって今まで出くわしたことなんて一度もないもん。
「いや、いつもは大学の方の研究室に参加させてもらってる。
今日は、教授も先輩方も研修でいないから。」
うちの学校は、付属の中学から大学までが、同じ敷地内にある。
けど、大学の研究室に出入りしている生徒なんて、少なくともわたしの周りじゃ、聞いたことない。
「…頭、いいんだね。」
彼は依然、わたしに見向きもしない。
黙々と、よくわからない液体をフラスコに移し変えている。
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