Chapter.2

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SIDE栄口  郁の所から阿部達の所へ向かいながらぼんやりとあの日のことを思い出してみた。ただのクラスメイトだった郁の存在が大きくなったあの日を。  たしかその日は午前放課で、だいたい部活に入ってない子は帰っていた。そりゃそうだよね、早く帰って遊んだ方が有意義だもん。 それでも野球がやれる方が俺にとって有意義なことだから部活に入ったんだけど。  ランパスが終わるとモモカンから休憩の声がかかる。流れ出る汗が立ち止まる程流れ出てきた。これは止まってるよりも歩いた方が賢明だなと思って、自分のカバンからお茶の入ったペットボトルとタオルを取り出す。どこまで行こうかと考えるとそういえば駐輪場のとこの桜が綺麗だったなと思い出すと、それと同時に足が動き出していた。  ちょっと歩くとすぐそこに桜並木があって、顔を上げ手が届きそうなくらい近くに桜の花があった。こんなにいつも通る道なのに、ゆっくり見るのって初めてだなぁ。今日は本当にいい機会だったな。 「栄口…君??」  振り返ってみると、そこにはクラスメイトの水瀬郁がいた。どうしたのかと思っていると、やっぱり栄口君だったと笑ってみせた。 「水瀬さん、どうかしたの?」 「うんと、栄口君って今暇かな??」  不思議に思いながら、休憩があと10分位かなと答える。 「なら大丈夫だね。一緒に桜餅食べない??」  コンビニの袋を掲げて見せながら、水無瀬さんは笑った。 「こんなに綺麗な桜が有るのにお花見しないなんて勿体無いなぁって思って。だけど、皆部活だからひとりでお花見するしかないなぁって思ったら、栄口君が居たから良かったらどうかなぁって」  ちょっと変わった子だなって思ったのは確か。だけど、勿体無いなって思ってたのは一緒で、ちょっと嬉しくなった。だからあの時、俺は君の誘いに喜んでだなんて答えたんだと思う。  桜餅と君と俺。たった10分くらいの時間なのに一時間も一緒にいられたくらい、楽しい花見だった。 君と桜と蒼空の下 <君と桜餅を頬張った><甘く、ほんわかした気持ちは何かの予兆だったのかもしれない>
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