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談話室の前を通りかかった少年が、ドアが半分開いているのに気づき、覗き込んだ。
(あれ、誰かいんのかよ?ん?なんだ、あいつ…。こんなとこで何してんだ?)
訝しそうに眉間を寄せながら、少年は口を開きかけた。
しかし――。
少女の背中は、圧倒的な孤独に満ちていて、声をかけそびれた。
人の気配を感じて少女が振り返る。
「なに?」
少年はびくっとして、しどろもどろになった。
「あ、え…。いや。」
「なに?」
「う…ん。あっと…。電気もつけないで何やってんのかなあと思ったんだよ。」
少年が答え終わらないうちに、少女は再び窓の外に目をやった。
「夜景を見てただけだよ。」
少年は、どぎまぎしながら少女の傍らに歩み寄った。
少女は気にもとめずに外を眺めている。
「12月って好きじゃない…。クリスマスも嫌い…。大嫌い。この季節になると私、憂鬱になる……。」
なんだか〝らしく〟ない、か細い声で少女が言った。
「なんだか……幸せじゃなくちゃいけないみたいで……。幸せじゃなくちゃ、あの光の中にはいられないんじゃないかって……。だから嫌い。クリスマスなんて。クリスマスのある12月なんて大嫌い…。」
少年は思わず少女を見つめる。
いつもクールで大人びている彼女の口から、そんなセリフを聞くとは思わなかったのだ。
少年は言葉を失った。
そんなことを言われたら、自分だって――。
恋人と過ごす――なあんて年齢じゃないし、ターキーやケーキや、いろんなご馳走が並び、好きなモノ、本当に欲しいモノをプレゼントしてもらえる温かなファミリークリスマスを過ごせるわけでもない。
そういう意味じゃあ、オレだって幸せじゃあないとは思うけど――。ここの施設のヤツの殆どがそうだと思うけど――。
「いいじゃんか。」
少年が言った。
その声が。
やけに大きく響いて聞こえ、少女は弾かれたようにハッとなって、その顔を見つめた。
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