《前編》

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……不安は的中した。 1ヶ月という長さは、1週間の比ではなかった。 部活で遅く帰ってから1人で夕飯の支度をし、洗濯をし、宿題をする。 ……話し相手もいない。 その生活は、私を精神的にも体力的にも疲れさせていた。 『家の中で明かりが灯るのは、私のいる場所だけ』 『風が窓をゆらす音以外で聞こえるのは、自分が何かをする音だけ』 家に私1人しかいないのだから、当たり前のことだけど…… この生活が始まって長い時間がたった今。 気になり始めたそれが当たり前のことだからこそ、 私の目の前には『ヒトリ』だという現実が常に突きつけられる。 それが、たまらなく怖かった。 『ヴォォォォォォン』 ――ほら。 いつもは気にもしない電子レンジの稼働音が、 『ガタッ』 椅子を動かす音が、 『パカッ』 タッパーの蓋を開ける音が、 私に『お前はヒトリなんだ』って言ってる。 私には、そう……聞こえる。
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