【 夜明け前 】

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「はいはい。でもなるべく早く帰って来なさいよ。おじいちゃんもおばあちゃんも、あなたを可愛がりたくてしょうがないんだから」 「なんでそんな変な言い方するかな……。わかってるよ。今日はすぐ帰るつもり。行ってきます」 玄関の扉を押し開けると、すぐに潮の香りに包まれる。 「もっと素直に喜びなさいよ。大人ぶっても損をするだけよ」 祖父母は笑顔で見送ってくれるのに、母はいつも一言多い。 黙々と荷物を片付ける、普段から口数の少ない父の背中にも声を掛けて、ようやく海へと歩き出した。
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