【 夜明け前 】

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祖母が、困る、と言うぐらい、家の裏すぐ近くにその海はある。 所謂"海水浴場"とは違って、ただの"海"。 この辺りは住んでいる人も少ないし、観光客なんて来るような土地でもないから、ここで誰かに会ったことはない。 往復の道のりですれ違うのだって、お地蔵様ぐらいだ。 でも私のお気に入りは、海岸沿いをもう少し西へと進んだ先。 そびえ立つ崖で行き止まりになる場所が湾のような形になっていて、そこにいくつかある見上げるほど大きな岩が、私をより独りにしてくれる。 一年ぶりに訪れた私の居場所は、思わず抱き付きたくなるほどに優しい色で、私を迎えてくれた。
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