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校舎に吸い込まれていく生徒達の背中を見ながら、忘れ物はないかとバスを振り返った。
食材や布団、明日予定している山登りの道具等は、前日に予め搬入してある。今日の荷物は、全て加藤先生が持って行ってくれていた。
自分の荷物だけを持てば良い事を再確認したかっただけだ。
バスと一緒に、バスが通った道が視界に入る。細い、舗装もされてない林道だ。よくここまで、バスが入ってこれたものだと感心する。きっと私だと、何回か脱輪していただろう。
自分の荷物を持ち、再び校舎に目を向けた。ここからは見えないが、校舎の裏側から山へ向かう道があり、そのずっと先に滝があるらしい。明日はそこへ行くのだ。
だが山登りに関しては、折角、ここに来るのだからと、加藤先生と教頭の二人で決めてしまっていた。私達の意見は完全に無視だ。
それにキャンプファイヤー。
生徒達の言葉を借りると、
「まるでガキ」だ。これも勝手に決められていたのだ。
そのくせ教頭は遅れて来るとか、ふざけてる。
「あ、あのー、宮崎先生?」
少しイライラしていたし、それが顔に出ていたのだろう。
誰かが恐る恐る声をかけてきた。
そちらに目を向けると、陰気な感じの眼鏡の男性が立っている。
他のみんなが校舎に向かった今、残っているのは私と田中先生だけだ。
私は、(ああ、こんな顔だったっけ)と思いつつ、出来るだけ愛想良い顔を作った。
「田中先生、どうされましたか?」
「は、はぁ……あ、運転手さんが、明後日の十時で間違いないですか? って」
迎えの時間の事だろう。
「ええ、それでお願いします」
私はにっこり笑って、そう答えた。
日程表をプリントで渡してるだろうが。見てないのか。
心の中では、そう毒づく。
私の言葉を受けて田中先生は、バスのステップに足をかけて運転手に向かって声をかけている。
その後、彼が荷物を持って降りると、バスは動き出した。そして校庭を旋回し、あの細い林道を走り去っていくのだった。
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