一日目

5/10
前へ
/63ページ
次へ
「じゃあ、行きましょうか」 田中先生に声をかけると、私は荷物を持って校舎へと歩き出した。 田中先生が慌てて追いかけてくるのを感じるが、待つつもりも一緒に並んで歩くつもりもない。私はとろくさい男が嫌いなのだ。 校庭を早足で歩き、校舎の生徒用の下駄箱のある入口に着く。その時になって漸く、田中先生が追いついた。 「み、宮崎先生、歩くの早いですね」 とか。 貴方が遅いだけでしょう。 下駄箱の入口には、スチール製の扉が付いていた。ドアノブを回して開くやつだ。 建て付けが悪いのか、少し引っ掛かる感じがあり、力を入れて引っ張る。 木造の校舎だという事を考えると、どう見てもこの扉は後付けだ。そういえば正門も門柱のみで、門扉は無かった。この校舎が建てられた頃には、こんな山奥という事もあり、外界と遮断する必要はなかったのだろう。 そんな事を考えながら中に入る。すると、向かい側にも同じ扉があるのが目に入った。校舎の向こうに遊具か何かがあり、その出入りの為にあるのだろう。 下駄箱の床には靴が散乱していた。何足かは下駄箱の中に入れてあるが、半数以上は床に脱ぎ散らかしている。 私は溜め息を吐きながら、散らかっている靴を下駄箱に入れ始めた。 この下駄箱は、正門から見て校舎の右端に位置していた。 校舎は横に長く、左側にも入口がある。 そこまでの間に教室があり、生徒達はそこで寝泊まりするのだ。 今頃は加藤先生に言われて、掃除をしている筈だ。とは言っても、ある程度の掃除は事前にしてくれてるのだから、軽い拭き掃除くらいで十分だろう。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加