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「また来たんだ」
イタリアエリアの北風が強く吹いた路地裏先の空き地。人気のないその場所にフィディオの声が響いた。
薄暗くなった夕方の空には厚く雲が覆われている。
「……迷惑か?」
少し離れた場所で視線を外したままマークは呟いた。宙で弧を描いた枯れ葉が淋しさを伴って地を滑る。ついで足元に緩く転がって来たサッカーボールに顔をあげると勝ち誇った顔をしてフィディオが歩みよってきた。
「まさか、
…来ると思ってたよ」
嘲笑いながら顔を覗き込んできた彼にマークの顔はカッと赤くなる。
「お…俺は…」
次の瞬間ふわりとマークの茶色い髪が揺れて。華奢な白い顎を不意に引き寄せたフィディオは戸惑いに開かれたままの唇を強く奪った。冷たい空気の中重なった部分から全身に熱が伝わっていく。
「……ッふぃでぃ…」
驚いたのも束の間観念したマークは静かに瞳を閉じた。
葉を無くした木々が鬱蒼と揺れるこの場所で
繰り返される甘い駆け引きは
ふたりだけの秘密。
(言葉なんていらない)
(そういう関係、だろ?)
end.
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