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~選考会場~
―――――――――
「君、可愛いね。名前何て言うの?」
「…………はぁ?」
品番付けて恒例のトナカイの品定めが始まるやいなや、そいつは一直線にこちらへやってきた。
「だから、名前。教えてよ」
何だこいつ…!
髪型は赤っぽく無造作にピンをとめて後ろに流してあり、右目はその前髪に覆われていて…顔もしっかり整っている。
世間じゃ格好いいとでも言うんだろうが。
人と接し慣れていない僕にはあまりにも唐突過ぎて返事に困った。
「…梓斗」
ぶっきらぼうに答えてもそいつは軽い調子で返してくる。
「梓斗か、名前も可愛いね。俺は樹。今年からやっとサンタやれるんだけど…俺のトナカイ、やってくんない?」
「はぁ?…無責任な事言うな。他のトナカイ全部見てからそういう事言えよ。
それと可愛いって言うな」
思わず本音が出た。
どうせこの痣を面白がって来たに決まってる。
樹は少し目を見開いて驚いたようにこちらを見た後、すぐに笑顔に戻って
「はは、言うねぇ。じゃあそうしようかな。
ま、梓斗もそれが無責任かどうかそのうち分かるよ」
と言って手をひらひら振りながら去っていった。
へらへらしやがって。
でもあいつ痣の事何も言わなかった…
こんな風に話しかけて来る奴がいないわけじゃない。でも最後はみんな痣の事をからかっていたのに…。
あいつなら律みたいに…
「なるわけねぇよな…。あんなへらへらした奴無責任に決まってる」
希望を持つことを知らない梓斗は、自分を否定するかように小さく呟いた。
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