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凛、
世界は時に、こんな音も奏でるものだ。
[─夢幻─ゆめまぼろし]
「───雪、か」
俺の声は自然の生み出した静寂を容易く打ち砕いた。
どうやら昨日の夜の内に降ったらしい。
刀の稽古でも…と唐紙を開けたそこには、俺の腰ほどまで高さのある白銀の世界が一面に広がっている。
日光がそれに反射してまだ敷居の内側にいる俺の身体を照りつけてくるのが忌々しく感じて、少し力を込めて唐紙を閉めた。
「ッ、」
ぴしゃんと、木同士がぶつかる音を聞きながら畳の上に膝を突いて目頭を押さえる。
目蓋に張り付いた光の粒の残像を振り払うように頭を小さく揺らした。
からり、
「・・・朝から騒々しいですよ、鬼灯」
「黙れ…、人の領域には無断で入るな…」
「領域?おや、この家は私の物ですからここは私の領域ですね」
「・・・何の用だ?」
「貴方が解放した妖怪達の酒を飲む勢いがつきすぎて、草芽が倒れそうなので来てもらおうと思いまして」
「妖か…あぁ、お前等…昨日からずっと飲んでいたのか」
(呆れた…)
俺は突然部屋に入ってきたこの茶髪の男…皐月に態とらしく溜め息を吐いて立ち上がる。
一瞬、焼き付いた日光の残滓に眩暈がしたがすぐに体勢を整えて何も封じていない紫刀を握った。
その一部始終を傍観していた皐月は眉根を僅かに寄せて大丈夫ですか、と訊ねてきたが、俺はそれを無視して皐月が来た方の敷居を跨いだ。
「…っ、奴等…自分達の行動全てが俺に影響すること考えろ…!」
「…影響?」
「色刀の妖が具現化して行動する時、その分の体力のほぼが色刀の主の体力から引かれる。
…昨日から睡眠ので回復するはずの俺の体力は…あいつ等の酒飲みの所為で回復どころか消耗し、た」
俺の後ろを歩く皐月に説明をしながら、無駄に広い造りの皐月の屋敷を、壁伝[カベヅタ]いに…偶に、壁へと寄りかかり息をついくことで休みながら進んでいく。
「・・・彼処、か」
目的の部屋が見えてきた。
近づくにつれ、聞こえてくる奴等の笑い声。
(・・・、今、俺の身体がこんなにも怠い理由は…なんだったか)
考えずとも分かる。
あいつ等の所為だ、先程の理由と一緒で。
「っ~…!」
(なのにのうのうと酒飲みやがって…!!)
途端、堪えきれなくなった俺は、思い切り唐紙を蹴り飛ばし
「貴様等、表に出ろ!
全員ぶった斬ってくれる!!」
と、持っていた紫刀を抜刀して怒鳴った。
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