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シンと静まり返った体育館内。聞こえてくるのは空調機のファンが回る音と、壁の向こう側の木に止まっている蝉の泣き声。そして、心臓の鼓動。血流さえ、聞こえそうなほどの無音と静寂。
防具の中はむせかえるような汗の臭いでいっぱいになっており、竹刀を持つ腕は鉛のように重い。
高校二年の夏。三年生の先輩達にとっては、最後の大会。
「ハァ!?告白!?」
「シッ!声デカいって!」
体育館の裏、練習の休憩時間の合間に僕は親友に想いの内を打ち明けた。
「雅先輩って、あの雅先輩か?」
橘 雅―――我が校きっての美しさ、そして剣道部随一の強さを誇る男女問わずして憧れの存在。今まで数多くの男子がその勇士を競っていたが、今までこの難攻不落の城壁を攻略したものはない。しかも、そのフリ方もかなり特徴的……というより、性格に少々の問題があった。
「めんどくさい」
この一言で一括され打ちのめされた男子は数知れず。無論、僕もたった今その仲間入りを果たした訳だが―――
「そうだな……今度の大会、私を全国に連れて行ってくれたら考えてみよう」
きっかけは、この一言からだった。
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