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ハザトでは、朝からずっと雨が降っていた。 セントリウスは晴れていたのに、ここでは重たげな灰色の雲が晴れる気配など微塵も無い。 完全に太陽を遮断し、肌寒くさえある。 サクヤは、街の郊外の墓地にいた。 母の亡骸を納めた棺が埋葬されるのを、黙って見つめている。 うっとおしい小雨すら気にならなかった。 参列者は居ない。 父ですら、仕事を理由に一度も顔を見せなかった。 母は、身内にさえ疎まれる存在だった。 自分もそうだ。 いや、疎まれるどころか、その存在さえ…認められなかった。 埋葬が終わり、作業をしていた男達がいなくなると、サクヤは一人そこに取り残された。 母と呼んだことすら無い人なのに、それでも母親だ。 それなりの喪失感はある。 頬を伝うのが雨なのか涙なのかも区別がつかない。 悲しいのかどうかもわからない。 ただ、何かが一つ、終わった気がした。
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