32952人が本棚に入れています
本棚に追加
/827ページ
雨
ハザトでは、朝からずっと雨が降っていた。
セントリウスは晴れていたのに、ここでは重たげな灰色の雲が晴れる気配など微塵も無い。
完全に太陽を遮断し、肌寒くさえある。
サクヤは、街の郊外の墓地にいた。
母の亡骸を納めた棺が埋葬されるのを、黙って見つめている。
うっとおしい小雨すら気にならなかった。
参列者は居ない。
父ですら、仕事を理由に一度も顔を見せなかった。
母は、身内にさえ疎まれる存在だった。
自分もそうだ。
いや、疎まれるどころか、その存在さえ…認められなかった。
埋葬が終わり、作業をしていた男達がいなくなると、サクヤは一人そこに取り残された。
母と呼んだことすら無い人なのに、それでも母親だ。
それなりの喪失感はある。
頬を伝うのが雨なのか涙なのかも区別がつかない。
悲しいのかどうかもわからない。
ただ、何かが一つ、終わった気がした。
最初のコメントを投稿しよう!