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「カルストっていうのは、誰なんだい?」
「…カルストは…くまさん」
「そうかい。ぬいぐるみかな」
僕の問い掛けに、女の子はこくん、と頷く。
「じゃあ、探そうか。」
そう言って女の子の手を引き、歩きだそうとした時…
遠くで頻りに「ナツキ」と叫ぶ、女の声がして僕は振り返った。
「あ、ママ!」
「ナツキ!また、あなたはこんな所で…」
ママと呼ばれたその女は、僕を一瞥してぺこりと頭を下げる。
その仕種もまた
壊れた玩具のようで、僕はふっと微笑んだ。
「すみませんね、うちの娘が」
「いいえ。それよりナツキちゃん、カルストはもういいのかい?」
「カルスト?」
彼女は不思議そうに首を傾げて僕を見る。
「ええ。くまの、カルスト。」
「ぬいぐるみ…ですか?」
「おや…ご存知ありませんか」
「ええ…。少なくとも、うちにぬいぐるみの類いは布の人形しかありませんもの。」
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