扁桃腺

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その白い肌に一点だけ浮かぶ赤が、いやに目立つ君が。 僕の目を見て言う。 「月と猫は同一だね」 「曖昧だな。もっと明確に。」 「なら、月明かりから生まれた猫には、尻尾がない。」 「それは良いね。」 言った僕を嬉しそうに眺めた細い目は、ひとしきりの間を置いて置物へ視線を落とした。 切れ長の細い目をした無骨な彼は、小説を嗜む聾者(ろうしゃ)であった。 彼は骨董品を扱う僕の店が大変気に入ったようすで、毎日顔を出しては新しい作品の話をして、そして商品を愛しげに眺めるのだ。 「月の猫には、尾がないのだろう?」 「ああ。」 「ならば、こいつが主人公かね」 僕が指差した、硝子細工の猫の置物を見つめて、幾分満足げに首を縦に振る。 この置物は、僕の故郷で譲ってもらったものだった。 大切にしていたけれど、旅の途中で尾が折れてしまったので、その時には途方に暮れたが良く見れば尾のない彼女も美しく、そのままにしておいたのだった。
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