扁桃腺

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「そうだ。この猫、譲っちゃあくれないかい?」 朗々とした声で言う彼に、僕はうーん…と唸り、首を横に振る。 「悪いが、その猫は譲れないな。僕の宝物なんだ」 「おや、そうかい。なら、何故商品に雑ぜているんだい?」 「僕は気まぐれでね。こうでもしないと埃を被るからね」 「成る程。これも使おう。いや、いい買い物だったな」 「何も買っちゃ、いないだろうに。」 「馬鹿を言え。君から素晴らしい案を買い取ったのさ」 「そうかい。ならば、対価を頂こうか」 「あいにくだが、今は持ち合わせがなくてね」 「それじゃあ買い物とは言わないな。」 「そうかもな。」 「小説、楽しみにしているよ」 「ああ。対価はそれで。」 「承知したさ」 笑った僕に彼もまた微笑み、「では、また」と言って扉の向こうへと消えた。 「君が主人公なんだそうだ。良かったな」 僕は美しく微笑むオッド・アイを眺めて言う。 無論、返事などないのだが…彼女は「そうね」と言っているようにも見えた。 すると、ガラリと重たい音を立てて扉が開き…そこには旅仕度を済ませた青年が立っていた。 「いらっしゃい」 「おや、貴方が店主さんですか?」 「ええ、まあ」 「随分といい趣向をしていらっしゃるので、てっきりお爺さんがやっているのかと」 「ははは。良く言われますよ。」 「…おや?」
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