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「やぁ。上手く書けたから、持って来たよ」
「おや。こんな早くに来るなんて、余程の自信とみた。」
無骨な彼は得意げに笑うと、一冊の綴じ紙を手渡してきた。
僕は目の前の墨だらけな彼の手を見て、完成と同時にやってきたのだと悟る。
「どれ。」
「待った。あの猫はどうしたんだい?見当たらないようだが。」
「よく気付いたね。彼女は在るべき所へ帰ったよ。今はとても幸せだろうね」
「そうかい。なら、私のこれと同じだね」
「?」
「読めば、分かるさ。君のことだ、きっと忘れない。」
そう言った彼は、黒く汚れた手をヒラヒラと振って出て行った。
『硝子細工の猫を抱いて、青年は旅立つ。』
『黒猫に姿を変えた彼女の、ほっそりとした美しい声を探して。』
「おかえり なさいまし。」
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