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自分の右手をじっと見つめて、おもむろに舐めると「アイタタタ」と呟いている
のぞきこむと、けっこう深そうな切り傷から血がにじんでいた
「どこで怪我したんだ」
「うん……こないだ道で割れてるガラス踏んじゃって」
「…どうやって手でガラスを踏むんだよ」
「ね」
……“ね”じゃねーよ
俺は引き出しを探ると大きめのバンドエイドを見つけ出した
彼女の冷たい手を握って引き寄せると、痛そうな傷にふわりと貼り付ける
月子は満足気にそれをみた後、時計をチラリと確認して俺の顔に目を向けた
まるで恋人同士のように見つめあう
俺、この女の術中にがっつりはまってねえか???
でもなんでだ
悪い気がしねえ……
「もう、行かなきゃ……あんまり長くいると、道に迷っちゃうから……」
さっさと出て行ってほしかったのに、たかが数分でものすごく名残惜しいような…妙な気分
彼女を玄関先まで見送る
結局最後まで脱がなかった黒いコート
そして再び黒いブーツに足を通すと、ゆっくりこちらに向き直った
「悠太」
彼女の八重歯を見つめる
「優しくしてくれてありがと、幸せだった」
「大げさ」
そう言ってちょっと笑うと、突然彼女の顔が超至近距離
唇が触れるかと思ったら、唇をペロリと舐められた
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