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「こんにちは」
おじさんが、ゆっくり私の方を見た。
今日もおじさんは、昨日と同じ場所に座っている。
私の、特等席。
「あぁ、昨日の子だね。今日も来るだろうと思ってたよ」
私は驚いてえっ、と短く叫んだ。
「おじさん、エスパー?もしかして私が来るの予知してた?」
「いや。少しあってるけどちょっと違うな。因みに僕はサンジェルマン。おじさんではないよ」
「ふうん。…サンジェルマンって何処かで聞いたことがあるな。てゆうかおじさん、どこの人?どこから来たの?サンジェルマンって、日本人じゃないよね!」
私は少し変わった非日常の訪問者に、好奇心があった。
おじさんは一気に喋り切った私に驚いて少し笑ってしまった。
黙ってると幽霊みたいなおじさんは、笑うと儚げな美人って感じだった。
おじさんなのに美人は可笑しいかなと思うけど。
やっぱり、美しい人なのだ。
「やはり君は僕をおじさんと呼ぶのだね。」
「なんて呼んで欲しいの?」
「いや、いいんだ。名前なんてあってないようなものだからね。…ただ、君から見たら僕はおじさんなのだなと。それだけ」
なんだか少ししゅんとしたように見えるおじさんをみて私は胸がむずかゆくなった。温かいような。
いわゆる母性?
「サンジェルマン」
「えっ」
私が今度は急に名前を読んだのでおじさんが驚いて顔をあげた。
「…サンジェルマンって、よんでもいい?」
私はあっ、と思った。おじさんは初めて子供みたいなきらきらした顔をしていた。
「いいとも!君のことは何と呼ぼうか」
ライラとか?とおじさんが勝手に名付けだすので私は思わず吹き出した。
「ライラってどこの人ですか。…まあいいです。私の名前もあってないようなものですから。ライラで、いいですよ」
ライラ。不思議とその名前は私の内側にすうっと入りこんできた。いつか、ずっとそう呼ばれてきたように。
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