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私はポツリと呟いた。
「親に、名前、あんまり呼ばれないんです」
サンジェルマンは静かだった。私は小さい子に聞かせるように、ゆっくり話し始めた。
「私の親、忙しいんだ。家にいたのなんて、多分まだ記憶にない頃ぐらい。あ、別に貧乏じゃないんだけどね。だから、お金だけもらってれば、私は私で生活できるの。本だって好きなだけ買えるし。だから私、淋しくは…」
淋しくは、ない。
最後の一言はでて来なかった。
私の家は文字通り本であふれ、小さな図書館のようになっていた。
私は、小さな図書館の孤独な王様だった。
家来もなく、友人もなく。
「アイスを、食べに行こうか」
「えっ」
サンジェルマンは急に立ち上がり、私の手を引き、歩きだした。
「おいしいアイス屋さんがあるそうだ。僕は山ぶどう味が食べてみたい。ライラは?」
私がきょとんとしてる間に、おじさんは私をアイス屋さんに並ばせた。
公園から出てすぐの所。
この時間帯にしては人が多い。
なるほど、どうやら人気のようだ。
「さぁ、どれでも好きなものを頼むといい。お金の心配は、無用だよ」
サンジェルマンは、どうやら私を元気づけたかったらしい。
それに気付いた私は、胸の奥がきゅうとなるのを感じた。
サンジェルマンに、笑いかける。
「私も山ぶどう、ひとつ」
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