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私はサンジェルマンに、その日のことを話した。
サンジェルマンは、うんうんと大人のくせに、馬鹿みたいに真剣に聞いてくれた。
戻れるはずなんて、ないのに。
それでも私の後悔は止まらなかった。
「私、もしまた戻れるなら、寝坊なんて絶対しないのに」
「それ、約束できるかい?」
「えっ」
私は思わず聞き返す。
約束?まさか。
だけど。
「約束…できるよ」
サンジェルマンの言葉には不思議な魅力があった。
それは自信のある人の喋り方だった。
まるで、それら全てが実現できますよ、とでもいうような。
私がうなずくと、サンジェルマンはふっと顔を緩めて笑った。
「そうか。約束、できるんだね」
嬉しそうに、そう言った。まるで約束をするのが初めてみたいだ。
「来週の今日、また公園においで。いいものを、みせてあげる」
サンジェルマンはそういうと、私のアイスのゴミも捨てて、長い足で去っていった。
影法師のような長い足。
背中を見送っていると、驚くべきことがおこった。
「…いない?」
サンジェルマンが急に消えた。
私はもう一度瞬きする。
やはり、いない。
「あー…」
私はなんだか夏の蜃気楼を見ていたような気分になった。
舌に残る酸っぱさだけが、来週の待ち合わせを私が信じれるものだった。
「ふふん…」
久しぶりにいい気分でうちに帰る。
今日は日記を書こうかな。
変な、サンジェルマンのことと、来週の待ち合わせ。
少しハイクオリティな、私の夏休み。
サンジェルマンに出会う、夏休み。
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