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坂口さんの声が悔しそうにこもる。
それを聞いて、胸が痛くなった。
「本当に、大丈夫です。……私も、きちんと締め切りに間に合うよう頑張りますから。」
『…ありがとう。締め切り、1日くらいならなんとかするから…自分が納得できる作品を書いてくれ。』
「坂口さん……」
締め切りを1日延ばすなんて、実はとても大変な事だ。
それでも坂口さんはそう言ってくれた。
灰谷さんを担当にしてしまった事と、自分の指導力不足のお詫びだと言って。
坂口さんは悪くない。
私のメンタルの弱さがそもそもの原因なのだから。
…だから私は密かに、『本来の締め切りの一日前に仕上げる』という目標を自らに掲げる事にした。
とてつもなく苦しい日々になる事が分かっていたけど、それが私の作家としてのプライドのような気がしたから。
「大変だあぁあ!!!間に…間に合わない!!」
3日後の朝。
焦って着替えながら、私は絶叫していた。
もうタクシー乗って空港向かってなきゃいけない時間なのに…徹夜で夢中になって小説を書いていたので、時計を見る事すら忘れていたのだ。
克也を見送りに行く約束してたのに~!
私はカバンを寝室まで取りに行く暇も惜しみ、財布と紙袋を持ち家を飛び出した。
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