‡一章‡

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  依頼を終えて戻ってきた彼女は宿屋の主人である女性から報酬を受け取り、お礼にと作りたてのパイをごちそうになっていた。 「いいんだよ。大変な仕事押しつけちゃったんだし、このくらいのお礼はしなくちゃね。お金だけ渡してサヨナラってのも寂しいし」 「ふっふーん、ありがとうございます。でもあのくらい簡単な依頼でしたよ~」 言いつつエリアはアップルパイを口に運ぶ手を止めない。 口の周りに生地とりんごの欠片をつけて、無邪気な笑みを絶やさなかった。 カウンターに頬杖を突いて宿屋の主人はエリアに向き合う。 「簡単なもんかい。あの猪には毎回毎回手を焼いていてねぇ。でも腹空かせて下りて来ちゃうだけだし、殺しちまうのも忍びなくてさ」 だから依頼は生きたまま追い払うことになっていた。 単純に退治するだけなら強力な魔法の一撃で倒すことは可能だが、それをしては報酬は半減してしまう。 実力だけでなく適度に痛めつけて逃げ出させる、器用さが必要だった。 隣りに立てかけた赤い杖を一瞥(イチベツ)して、エリアは頷いた。  
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