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その呻(ウメ)きは地を揺らした。
悠久の刻を生き今なお成長を続ける霊宮樹が、仄かに光り輝く葉をざわめかせる。
宙に浮かぶ輝水から雫(シズク)が滴(シタタ)り、石の上で弾けて舞った。
陽の光無き広大な地。
世の法則の通用しない幻想ばかりが存在する世界で、それは苦しんでいた。
おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……――
それが抱く感情は憎しみでも悔恨でもない。
己を苦しめる確かな要因こそ知れど、それはその事実をありのままに受け入れていた。
だがこのままではいけない。
己の力が削り取られ、やがて滅びに向かう危機に、それは瀕しているのだから。
法則を生み、思念の象徴であるそれに生命体の俗な魂は存在しない。
それ自身そうなのだと感じていた。
しかし実際に死に瀕したとき、神たる精神が望んだのは、ひどく生物的で根源的な、生と安寧だった。
白銀と赤銅(シャクドウ)が彩る外殻から光の粒子が剥離する。
粒子は輝水に触れて雷光を発し、水の中に火を灯した。
火の灯りが煌々と放つ光は翠(ミドリ)の旋風に絡めとられ、石壁に入り世界の主の影をのばした。
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