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赤い杖が弧を描く。
横腹を強く叩かれ、大人ほどもある猪はその足を止めて怯んだ。
息を荒げ、小さく唸る。
警戒の色を強めた目で辺りを見回し、たったいま自身を打った敵を捉えた。
「あっちゃー、結構思いっきりやったんだけどねぇ。内臓外したみたいだわ」
青葉の生い茂る土をしかと踏みしめ、その敵は長い杖を一度くるりと回した。
人間の女性だ。
深紅の髪を後ろ手に結わえた、妙齢の女性。
依頼の魔物から離さない朱鷺(トキ)色の目は、不敵に笑っていた。
「退治するつもりはないけど、あんたが人里下りてくると迷惑なっちゃうみたいなの。
エサなら森の中にいっぱいあるでしょ? 悪いけど尻尾巻いて引き返してくれないかしら」
答えはより大きな唸りだ。
その猪――ハルドボアは彼女と正面に対峙し、先程同様の突撃を繰り出した。
ひどく直線的な突撃だ。
だが野生で育まれた脚は速く、真正面からハルドボアに睨みつけられるプレッシャーが対象を竦ませ、並みの戦士でも上手く避けるのは難しい。
迫るにつれハルドボアの姿はどんどん大きくなり、足音が振動へと変わった。
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