‡一章‡

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  しかしそれを目の前にしても彼女は余裕を保っていた。 ハルドボアが来る直前に高く跳び巨体をかわす。 杖を振って背中に一撃打ち込み、打った勢いに乗じて空中で身を捻(ヒネ)った。 こちらを振り返る猪に左手を向け、唱え終えた呪文を解き放つ。 「発破炎(アメーズブラスト)」 ハルドボアの周辺で、僅かな衝撃を伴いけたたましい音が弾けた。 舞い上がった土と葉に、橙赤色の火の粉が混じる。 驚いた様子でハルドボアは脚を止めた。 音を払うかのように何度も耳を、顔を震う。 着地した彼女は素早くハルドボアに走り寄りながら、小声で呪文を唱える。 両手で杖を握り、耳の内側を狙って逆袈裟に振るう。 ハルドボアは寸でで動いたが、鼻を叩かれ悲鳴を上げた。 たまらず走り出し距離を置こうとする。 倒れ込むように体を低く落とし彼女は片手を地面に付けた。 「地炎針(バル・グラン)」 ハルドボアが後ろ足を突いた土が爆発する。 土に群青の火花を煌めかせ、重量のある体を吹き飛ばした。 ハルドボアは一回二回と地面に転がり、木にぶつかって止まった。 衣服に付いた土と草を払うと、彼女はまた赤い杖を構えた。  
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