25人が本棚に入れています
本棚に追加
しかしそれを目の前にしても彼女は余裕を保っていた。
ハルドボアが来る直前に高く跳び巨体をかわす。
杖を振って背中に一撃打ち込み、打った勢いに乗じて空中で身を捻(ヒネ)った。
こちらを振り返る猪に左手を向け、唱え終えた呪文を解き放つ。
「発破炎(アメーズブラスト)」
ハルドボアの周辺で、僅かな衝撃を伴いけたたましい音が弾けた。
舞い上がった土と葉に、橙赤色の火の粉が混じる。
驚いた様子でハルドボアは脚を止めた。
音を払うかのように何度も耳を、顔を震う。
着地した彼女は素早くハルドボアに走り寄りながら、小声で呪文を唱える。
両手で杖を握り、耳の内側を狙って逆袈裟に振るう。
ハルドボアは寸でで動いたが、鼻を叩かれ悲鳴を上げた。
たまらず走り出し距離を置こうとする。
倒れ込むように体を低く落とし彼女は片手を地面に付けた。
「地炎針(バル・グラン)」
ハルドボアが後ろ足を突いた土が爆発する。
土に群青の火花を煌めかせ、重量のある体を吹き飛ばした。
ハルドボアは一回二回と地面に転がり、木にぶつかって止まった。
衣服に付いた土と草を払うと、彼女はまた赤い杖を構えた。
最初のコメントを投稿しよう!