‡一章‡

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  甘い香りが漂い、まだ熱の残るひと切れを口に運ぶ。 気味のいい音を立て狐色の薄皮が割れる。 中の柔らかい果肉が潰れ、芳醇な蜜とシロップが舌の上を流れた。 その蜜が染み込んだパイ生地の歯ごたえを味わい、咀嚼(ソシャク)する。 「うん、おいひー!」 できたてのアップルパイを頬張り、エリアは幸せそうに顔を綻ばせた。 ひと口、もうひと口と手掴みのパイを続けて口に運ぶ。 行儀悪く両頬を膨らませたエリアを見て、宿屋の女性は追加のパイを切り分けた。 「そんなおいしそうに食べてもらえると作った甲斐があるね。おかわりいるかい?」 「いりますいります。あたしアップルパイ大好き!」 空の皿を持ち上げてエリアは追加を求める。 中年の女性はにこやかにひと切れのパイを乗せた。 宿屋の一階、どこの街でもよくあるように食事場を経営している。 時間帯が外れ現在の客はカウンターに座るエリアだけであった。 「ありがとうございます! 依頼の報酬も頂いといてこんなに、おいしいアップルパイもごちそうになっちゃって」 街の近辺に出没し、畑を荒らすハルドボアを追い払う。 それがエリアがここで受けた依頼だった。  
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