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甘い香りが漂い、まだ熱の残るひと切れを口に運ぶ。
気味のいい音を立て狐色の薄皮が割れる。
中の柔らかい果肉が潰れ、芳醇な蜜とシロップが舌の上を流れた。
その蜜が染み込んだパイ生地の歯ごたえを味わい、咀嚼(ソシャク)する。
「うん、おいひー!」
できたてのアップルパイを頬張り、エリアは幸せそうに顔を綻ばせた。
ひと口、もうひと口と手掴みのパイを続けて口に運ぶ。
行儀悪く両頬を膨らませたエリアを見て、宿屋の女性は追加のパイを切り分けた。
「そんなおいしそうに食べてもらえると作った甲斐があるね。おかわりいるかい?」
「いりますいります。あたしアップルパイ大好き!」
空の皿を持ち上げてエリアは追加を求める。
中年の女性はにこやかにひと切れのパイを乗せた。
宿屋の一階、どこの街でもよくあるように食事場を経営している。
時間帯が外れ現在の客はカウンターに座るエリアだけであった。
「ありがとうございます! 依頼の報酬も頂いといてこんなに、おいしいアップルパイもごちそうになっちゃって」
街の近辺に出没し、畑を荒らすハルドボアを追い払う。
それがエリアがここで受けた依頼だった。
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