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賢「それで、どこか行きたいところはあるのか?」
デートができるという嬉しさに、つい大事なことを忘れていた。
目的地である。
これが決まらなければ無為に時間を過ごす羽目になってしまう。
阿「それなんですが実は明日、里で毎年恒例の夏祭りがあるんです。
ですから、ご一緒に参加したいなと思ってお誘いに来ました♪」
そう言って花が咲いたように笑う阿求。
その笑顔に癒されながら、俺は口を開いた。
賢「夏祭りか……何年ぶりの響きだろう」
阿「そうなんですか?」
賢「あぁ。
向こうに居た頃は学生時代くらいだったかな、参加してたのは。
卒業後はバイトで忙しかったり仲間が集まらなかったりで中々参加できなかったからな……」
一緒に行く彼女も居なかったしなと付け加えながら苦笑を漏らし、煙草に火をつけて天井を仰ぐ。
我ながら学生時代以降、なんとも味気ない生活を送っていたものだな。
だから紫さんのお誘いにアッサリ乗ってこの地に来た訳なんだが。
そのお陰で今は退屈することもなく、こんなに可愛い彼女もできたから後悔なんざ微塵も感じてないんだがな。
電気もガスもない、一見不便な生活に見えるが慣れればなんと言うことはない。
寧ろ今の生活の方が充実しているくらいだ。
阿「賢斗さんは素敵な方ですのに……外界の女性は見る目が無いのですね」
俺の彼女居ない発言に嬉しいやら憤っているやら、複雑そうに口を尖らせる阿求。
全く、このお姫様は何を言い出すやら。
賢「おだてても何もでないぜ。
……それにその発言は俺に彼女が居た方が良かったみたいな言い方だな?」
彼女の言葉に嬉しさと悪戯心が湧き上がった俺はからかうように言葉を返す。
すると阿求は慌てた表情を浮かべながら必死に弁解を始めた。
阿「い、いえ!
決してそう言うわけでは無くてですね!?」
賢「そうかぁ……阿求はそう言う風に思ってたのか」
わざとらしく俺は顔を伏せる。
すると段々と涙目になりながら服の裾を掴み、弱々しく呟いた。
阿「うぅ……そんなつもりは無かったんです」
好きな娘をいじめるとか……俺はガキかよ。
流石にからかいすぎたと思い、顔を上げて口を開いた。
賢「悪い悪い、冗談だって。
だから泣かないで……」
俺の台詞を聞くと、体を硬直させて目をマジマジと見つめてきた。
こんな表情も可愛いなと思いながら言葉を待つ。
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