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「ねぇ…」
眠りかけている僕の耳元で彼女はささやくように言った。
「ん?」
目を閉じたまま、耳をかたむける。
「私は誰よりも先生を愛してる」
不意に言われた言葉に、戸惑いを感じながらも僕は即答した。
「僕も、カナエさんの事が好きですよ」
目は開けなかった。
だから、その言葉を聞いてどんな顔をしたかはわからない。
彼女は何も言わず、僕の胸を枕にして寝息をたてる。
自分の発言を振り返ると、我ながら呆れ返った。
「愛してる」に対して「好き」と返す…例えれば金塊を差し出してきた相手に対して木片で返すようなものじゃないだろうか?
恋をしていれば…相手の事が好きなら、愛してると言って欲しいし言われたいと思うのが自然だろう。
例え嘘でも、愛してると言うべきだったかな…
言えなかったという事は、それが現実なのだということを彼女に告げた事にもなる。
この関係を続けたいなら、僕は明らかに選択肢を間違った。
いや…間違いは、この関係が始まった時から犯しているのだから、今さらな話だ。
気がつくと、携帯のアラームがなりチェックアウトの時間を告げた。
当たり前のように目覚めのキスをして、雑談しながら服を着替える。
人目を気にしながら、ホテルから出て彼女の家の近くにある人気のない公園で降ろす。
「先生、ありがとう」
笑顔で手を振る彼女に、いつも通り「またね」と言う。
しかし、彼女はまるで聞こえなかったかのように背を向けて去っていった。
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