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そしてその日の午後。
私は、またあのチャペルのある通りに立っていた。
初めてこの道を通った時、その庭に植えられた木々はどれも赤身がかかっていて、チャペル全体が秋の色に染まっていた。
それが今では、木々の色も春の柔らかな緑色にすっかり様変わりしていて。
それは、先生に再会したあの日からそれだけの時間が経ってしまったと言う証明みたいなものだった。
そして今日もあの日と同じ様に……。
花びらの舞い散る階段を幸せそうに腕を組んで下りて来る一組のカップルが、たくさんの参列者達からの祝福を受けていた。
でも、私の視線はそのカップルでは無く参列者の方に向いていて。
そこにある筈の無い彼の姿を探していた。
もしかしたら、また“アホ面提げてつっ立ってんじゃねーよ”って、あの声が携帯から聞こえてくるんじゃないかとか、淡い期待を抱いてみるけれど。
手にした携帯の鳴る気配は無い。
……当たり前か。
と、開いた液晶画面に雫が一つ滴った。
雨かと思い空を見上げてみても、頭上には雲一つ無い晴天が広がっているだけ。
それが自分の涙だって気付いた時に、二人の関係は終わったんだなって……改めて実感が湧いてきた。
――絵里――
と、不意に名前を呼ばれたような気がして……。
後ろを振り返ってみたけれど、そこにほんの数時間前まで私の名前を呼んでくれていたあの人の姿がある筈は無かった。
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