心の鍵

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そう。 私達は、再会する前の元の関係に戻っただけ。 身体の関係を持ってしまった事は、奥さんには本当に申し訳ないと思ってる。 でも、私も先生との最初で最後の思い出が欲しかった……なんて。 そんなものは、浮気相手の言う呈の良い言い訳にしか聞こえないよね。 これから先。 先生には、奥さんともうひとつの小さな新しい命との道が。 私にだって、私の道がある。 今までは、先生と私の歩く道がほんの少しの間交差していただけ。 すれ違い、お互いの体が過ぎ去ってしまえば、後は振り返らず自分の道を歩めば良い。 例えどんなに時間がかかったとしても。 あぁ……携帯の画面に表示された彼の電話番号とアドレスが、涙で滲んで良く見えない。 でもこの先のお互いの為にも、この名前は残しておいちゃいけないものだから。 ――データを消去しますか? 表示された選択肢。 震える指先で。 けれど迷う事は無く……。 YESを選んだ。 そして、呆気なく消えていく彼の名前。 続けて、メールや着信履歴……残された先生に関わる全てのものを消していく。 その度、やはり呆気なく消えていく彼との思い出にまた涙が溢れて来た。 先生。どうしよう。 このままじゃ涙が枯れちゃうよ……。 手元に揺れる、鍵の形をしたストラップ。 本当はこれも外さなくちゃいけない。 でも、これだけは……これだけはどうしても外す事ができなくて……。 だから、その鍵で昔と同じ様に。 私は溢れる先生への想いをもう一度しまい込んだ胸に、再び固く鍵をかけた。 end.
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