黒之十三物語

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瞬く銀光。 瞳が正体を捉える前に動く右手。 鉄と鉄とがぶつかり合い、 火花を宙にまき散らす。 その火花さえもかき消す勢いで 一合(イチゴウ)二合(ニゴウ)と 刃と刃がぶつかり合う。 刀身が剥がれんばかりの衝撃が 何度も何度も刀を伝って骨を揺らす。 額から流れる汗は、疲れによるものか、 それとも命を晒(サラ)す冷や汗か。 「やるね」 余裕すら伺える相手の口調。 奴(ヤッコ)さんは得物である大鎌を携えて 一歩飛び退きぼそりと呟く。 「【衝撃―Impact】」 振りかぶった鎌は、 重力に引かれるように地に突き刺さる。 突き刺さった刃から突如放たれる不可視の音速波。 魔法。 ほんの数か月前まで俺が知る由もなかった代物。 その存在すらも信じていなかった。 だが、それが、今、 命を刈り取る凶器となって襲い来る。 幸い放たれた魔法は、 速さだけの代物で、 魔力により強化された俺の刀で 軽く弾いただけで消えた。 だが、 あれをまともに食らうと意識は持って行かれかねないだろう。 詠唱も予備動作もほぼなく、あの速さ。 厄介な魔法だ。 「へぇ、今のを防ぐんだ。 今のは僕の最速の魔法なんだけど… いいね、君。ぞくぞくするよ」 俺はしないけどな。戦闘狂いめ。 でも…やられっぱなしのドMじゃないんでな。 「もっと興奮させてやるよ… 食らえよ 黒夜流剣術第二夜────────」 これは、俺の未来の記憶。 魔法も知らない。 喧嘩なんかしたことない。 生物なんか殺したことない。 そんな俺が放り込まれることになる世界。 十三っていう不吉な数字が告げる 始まりのストーリー。 元の世界に戻るための、 ただそれだけだったはずの物語。 黒の十三物語。 ほら時計が十三の時を刻んだろ? 始まりの時間だ。
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